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あな

穴

黒島 伝治

1928(昭和3)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,328 字 · 23 页

青空文庫

殊に、絶滅の仕方が惨酷であったゞけ、その効果が多いような感じがした。

彼等は、自分の姓名が書かれてある下へ印を捺して、五円と、いくらか半ぱの金を受取った。その金で街へ遊びに行ける。彼等は考えた。

「おや、こいつはまた偽札じゃないか。」不意に松本がびっくりして、割れるように叫んだ。

「何だ、何だ!」

「こいつはまた偽札だ。――本当に偽札だ!」

その声は街へ遊びに行くのがおじゃんになったのを悲しむように絶望的だった。

「どれ?……どれ」

それはたしかに、偽札だった。やはり、至極巧妙に印刷され、Five など、全く本ものと違わなかった。ところが、よく見るとSも、Hも、Yも、栗島も、同様に偽札を掴まされていた。軍医正もそうだった。

ところが、更に偽札は病院ばかりでなく、聯隊の者も、憲兵も、ロシア人も、掴まされていた。そして今は、偽札が西伯利亜の曠野を際涯もなく流れ拡まって行っていた。…………

(一九二八年五月)