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あな

穴

黒島 伝治

1928(昭和3)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,328 字 · 23 页

青空文庫

」

「ありません。」

「この札は、君が出したやつだろう。」

憲兵伍長は、ポケットから、大事そうに、偽札を取り出して示した。

「さあ、どうだったか覚えません。――あるいは出したやつかもしれません。」

「どっから受取った?」

「…………」

栗島は、憲兵上等兵の監視つきで、事務室へ閉めこまれ、二時間ほど、ボンヤリ椅子に腰かけていた。机の上には、街の女の写真が大きな眼を開けて笑っていた。上等兵は、その写真を手に取って、彼の顔を見ながら、にや/\笑った。女郎の写真を彼が大事がっているのを冷笑しているのだが、上等兵も街へ遊びに出て、実物の女の顔を知っていることを思うと、彼はいゝ気がしなかった。女を好きになるということは、悪いことでも、恥ずべきことでもない。兵卒で、取調べを受ける場合に立つと、それが如何にも軽蔑さるべき、けがらわしいことのように取扱われた。不品行を誇張された。三等症のように見下げられた。ポケットから二三枚の二ツに折った葉書と共に、写真を引っぱり出した時、伍長は、

「この写真を何と云って呉れたい?」とへへら笑うように云った。

「何も云いやしません。」

「こいつにでも(と写真をさも軽蔑した調子で机の上に放り出して)なか/\金を入れとるだろう。