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あな
穴
黒島 伝治
1928(昭和3)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,328 字 · 23 页
強いて押し黙っていた。
一時間ばかり椅子でボンヤリしているうちに、伍長と、も一人の上等兵とは、兵舎で私の私物箱から背嚢、寝台、藁布団などを悉く引っくりかえして、くまなく調べていた。そればかりでなく、ほかの看護卒の、私物箱や、財布をも寝台の上に出させ、中に這入っている紙幣を偽物かどうか、透かしてたしかめた。
憲兵にとって、一枚の贋造紙幣が発見されたということは、なんにも自分の利害に関する問題ではなかった。発覚されない贋造紙幣ならば、百枚流通していようが、千枚流通していようが、それは、やかましく、詮議立てする必要のないことだった。しかし一度発覚され、知れ渡った限りは、役目として、それを取調べなければならなかった。犯人をせんさくし出さなければ、役目がつとまらなかった。役目がつとまらないということは、自分の進級に関係し、頸に関係する重大なこと柄だった。
兵卒は、初年兵の時、財布に持っている金額と、金銭出納簿(入営するとそれを記入することを云いつけられる。)の帳尻とが合っているかどうか、寝台の前に立たせられて、班の上等兵から調べられた経験を持っていた。金額と帳尻とが合っていないと、胸ぐらを掴まれ、ゆすぶられ、油を搾られた。