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あきや

空家

宮崎 湖処子

「国民之友」1889(明治24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,554 字 · 30 页

青空文庫

や黄昏すぎて闇きころ、思いがけなく一群の人の此方に向いて来たるに遇えり、彼は立ち留りて窺いたるに、これは皆村人にてしかも阿園の葬式の帰りなりき、佐太郎は再び愕としてあたりの櫨の樹蔭に身を隠したり、群は何の気もつかず、サヤサヤと私語きあいつ緩々その前を通りすぎたり、彼は耳を澄まして聞きたるに多くの言語相混じてしかと分らざれど、彼はかく聴き取りぬ、「縊れてまで死ぬるとは誰にいかなる遺恨あってぞ」「何ゆえ死にしか和主がほかに知るものなし」「憐れ憐れ誰が殺せしぞ」「伯父よ佐太郎主が縊り殺せしとか」と、彼は再び消え入ったり、

一群ははるかに去りて暗光はドップリと暮れゆき再び来る人もなかりき、されど彼は阿園が棺とその葬式の道を恐れて出でず、なお樹下に潜みいつ遠近と夜の影を見回せり、彼の心には現世ははるかの山の彼方になりて、ココは早や冥土に通ずる路のごとく思われ、ヒヤヒヤと吹き来る風は隠府の羽を延ぶるがごとく、眼前に闇よりもひときわ黒く釣られたる案山子は焼け焦らされし死骸のごとく、はるかの彼方に隠々として焔えつつ遠くなり近くなりパシパシ火の子のハシる阿園が棺の火は、さながら地獄の無尽焔とも見えたり、目を瞑じて静かに考うれば、これまでの無量の罪業ことに阿園の忌中五十日間の心術と所業と、一層明白に浮び来たり