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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

その間に、彷徨う市民たちは、たった一晩のうちに、生色を喪い、どれを見ても、まるで墓石の下から出て来たような顔色をしていた。

風が出てきて、余燼がスーと横に長引くと、異臭の籠った白い煙が、意地わるく避難民の行手を塞いで、その度に、彼等は、また毒瓦斯が来たのかと思って、狼狽した。

市街の、あちこちには、真黒の太い煙が、モクモクとあがり、いつ消えるとも判らぬ火災が辻から辻へと、燃え拡がっていた。

射墜された敵機の周囲には、激しい怒に燃えあがった市民が蝟集して、プロペラを折り、機翼を裂き、それにも慊らず、機の下敷になっている搭乗将校の死体を引張りだすと、ワッと喚いて、打ち懸った。「死屍を辱しめず」という諺を忘れたわけではなかったが、非戦闘員である彼等市民の上に加えられた昨夜来の、米国空軍の暴虐振りに対して、どうにも我慢ができなかったのだった。

戒厳令下に、銃剣を握って立つ、歩哨たちも、横を向き、黙々として、声を発しなかった。彼等にも、生死のほどが判らない親や、兄弟や、妻子があったのだ。

次第に晴れあがってくる空に、プロペラの音が聞えてきた。素破こそと、見上げる市民の瞳に、機翼の長い偵察飛行機の姿がうつった。