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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

支配人が、大袈裟に、さも駭いた恰好をすると、急いで近よった。

「まあ、ようこそ。男爵さま。――」

支配人は、恭々しく手を出して、青年の帽子を受けとった。

「誰か、来てないか」

「どなたも、見えませんです。なにしろ、この騒動の中ですからナ」

「手紙も、来てないかしら」

「手紙といえば、真弓が、なにかビール樽から、ことづかったようでしたが……」

「そうか。真弓を呼べ」

支配人は、奥の方を向いて、

「真弓さアーん」

と声をかけた。

「はーイ」

と返事がして、派手な訪問着を着たウェイトレスがパタパタと駈けてきた。

「まあ、男爵。よく来たわネ」

「てめぃ、ビール樽から、なんか、ことづかったろうが」男爵と呼ばれる青年は、姿に似ぬ下等な言葉を、はいた。

「ええ、ことづかってよ。こっちへ、いらっしゃいよォ」

真弓は、広間の片隅の、函・卓子へ、男爵を引っぱって行った。

「今日は、ゆっくりして行ってネ。あたしも是非、あんたに、相談したいことがあるのよ」

「それよか、手紙を、早く出せったら」

「まあ、ひどい人。あたしのことより、あんなビール樽の手紙がいいなんて、あたし、失礼しちゃうわ」そういって、彼女は、帯の間から真白い四角な封筒をとりだした。