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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

まことに、哀れなアクロン号の最後だった。

船長リンドボーン大佐以下四十五名の乗組員は、敵国の首都を、完膚なきまでに爆撃した彼等の武勲を、唯一の慰めとしてアクロン号と運命を共にした。

だが、本当のことを云うなら、気の毒なことに、リンドボーン大佐以下は、大きな錯覚をしていたのだった。それは、大東京だと思って、爆弾の雨を降らせた一廓は、帝都とは似てもつかぬ草原と田畑だったのだ。それは帝都を、二十キロほど、東へ行ったところにある市川町の附近を択んで、軍部が急造した偽都市だったのであった。その市川の草原には、松戸工兵学校や、千葉鉄道聯隊や、世田ヶ谷自動車隊が、一夜のうちに急造した電灯装置ばかりの偽東京が、影も形もないほど、爆撃しつくされてあった。

偽都市が成功したその反面には、其の夜、帝都の、灯火管制が、如何に巧みに行われて敵機の眼から脱れることに成功したかを、雄弁に物語っているので、その夜の勲功の半分は軍部が担い、他の半分は、帝都市民が貰うのが至当であると面白いことを云ったのは、外ならぬ東京警備司令官、別府九州造氏であった。

戦雲暗し太平洋

わが海軍の主力、聯合艦隊は、小笠原諸島の東方、約一千キロの海上を、真北に向って進撃中であった。