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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

警笛は、飛行機に聞えないから、いくら鳴らしても、いいですよ」

「懐中電灯は、そのままでは明るすぎますから、ここに赤い布がありますから、それを附けて下さァい」

あちこちに、メガフォンの太い声が交叉して、布を被せた警戒灯が、ブラブラと左右に揺れていた。すべて秩序正しい警戒ぶりだった。

(それにしても、さっき見たのは、あれは夢だったかしら。悪夢! 悪夢!)

弦三は、雷門の地下道に蟠る不穏な群衆のことを、この須田町の秩序正しい青年団に対比して、悪夢を見たように感じたのだった。しかし、それは果して夢であったろうか。いやいや弦三は、確かに、あの呪いにみちた悪魔の声をきいたのだった。

弦三は、一つ自動車を呼びとめて、新宿の向うまで、走らせようと考えた。弦三は、二十一になる唯今まで、誰かに自動車に乗せて貰ったことはあるが、自分ひとりで、自動車を呼び止めた経験がなかったので、ちょっとモジモジしながら、須田町の広場に、突立っていた。

「呀ッ!」

「やったぞオ!」

突然に、悲鳴に似た叫声が、手近かに起った。

ハッとして、弦三は空を見上げた。

鉄が熔けるときに流れ出すあの灼けきったような杏色とも白色とも区別のつかない暈光が、一尺ほどの紐状になって、急速に落下してくる。