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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

「旦那、行くんなら、あっしも、お伴しますぜ。どうせ、今夜は、仕事が休みなんで」

「僕は、早く研究室へ行きたい――」

「あっしが力を貸しましょう。皆、向うから、こっちを向いてくるのに、先生とあっしだけは、逆に行くんだ。裏通をぬけてゆかなくちゃ、迚も、進めませんぜ」

「君は、防毒マスクを持ってるかい」

「持ってませんよ、そんなものは」

「それでは、毒瓦斯がやってくると、やられちまうぞ。悪いことは云わぬ。その辺の、毒瓦斯避難所へ、隠れていたまえ。生命が無くなるぞ」

「毒瓦斯かネ」印袢纏は、やや悲観の声を出した。「先生、手拭では駄目かネ」

「手拭じゃ駄目だ」

「手拭に、水を浸しては、どうかネ」

「そんなことで、永持ちするものか」

「そいつは、弱ったな」

二人が、押問答をしているとき、新宿の大通りでは、突如として、修羅の巷が、演出された。

うわーッという群衆の喚き声が、市外側の方に起った。それに交って、ピリピリと、警笛が鳴った。

「瓦斯弾が、落ちたぞオ」

「毒瓦斯がきたぞオ」

どッと、避難民の群は、崩れ立った。

避難路の前面に、瓦斯弾が落ちたらしく、群衆は悲鳴をあげて、吾勝ちに、引っ帰してきた。