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くうしゅうそうそうきょく
空襲葬送曲
海野 十三
「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页
の銘に気がついたなら、どのように叱驚することだろうか。
しかし、そのときは、一切が夢中だった。黄一郎親子は、仮りの避難所である塵箱の中に居たたまらず、一と思いに死ぬつもりで蓋を払ったところを、思いがけなく防毒マスクを被されたので「助かるらしい」と感じた外は他を顧る余裕もなかったのだった。しかも、背後には、恐ろしい火の手が迫っていた。黄一郎親子は、感謝すべき肉身の死骸の直ぐ傍に立っておりながらも、遂にそれと気付かず、蒸し焼きにされそうな苦痛から脱れるため、後をも見ずに逃げだした。
それに続いて、髯男が、やっと気がついたらしい印袢纏の男を、引立てながら、これも逃げだしたのだった。
「あっしは、恥かしい!」
死人の顔から、防毒マスクを奪いとろうとした浅間しい行為を恥じるものの如く、印袢纏氏は、マスクの中で、幾度も、幾度も、苦吟を繰返した。
大通りの軒を境に、火焔と毒瓦斯とが、上下に入り乱れて、噛み合っていた。
咄! 売国奴
愛宕山の上では、暗黒の中に、高射砲が鳴りつづいていた。照空灯が、水色の暈光をサッと上空に抛げると、そこには、必ず敵機の機翼が光っていた。