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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

うまく行かなかったこと。第二には、しっかりした信念がなくて、流言蜚語に、うまうまと捲きこまれ秩序が立たなかったこと。この二つの原因が混乱の渦巻を作ってしまった。

鼻緒問屋、下田長造の三男で、防毒マスクの研究家だった弦三が、自作のマスクを背負って、新宿附近に住む長兄黄一郎親子に届けるために、花川戸を出たのは、敵の飛行隊が帝都上空に達するほんの直前のことだった。

弦三は、なんのことはない、死の一歩を踏みだしたようなものだった。まず駈けつけた地下鉄の中で、彼は、避難群衆に、不穏の気が、みなぎっていることを、逸早く見てとったのだった。弦三の乗りこんだ地下電車が、構内を離れて間もなく、不穏分子の振舞は、露骨になって行った。

兼ねて、手筈ができていたものと見え、地下鉄の駅長は、避難してくる群衆を、無制限に地下構内へ入れすぎるという、極くつまらない理窟をもって、群衆の袋叩きに合ったのだった。暴徒の一味は、群衆が、興奮した様子につけこんで、今度は、切符売場を襲撃したのだった。金庫は、みるみる破壊され、銀貨や紙幣が、バラバラと撒き散された。群衆は恐さも忘れて、慾心まるだしに、金庫を目懸けて突進した。