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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

「放送準備は、まだ出来ないのかネ」鬼川は団員の一人に訊いた。

「もう直ぐです」団員は答えた。「いま、水冷管に冷却水を送り始めました」

「電気は、来ているのですか」

「猪苗代水電の送電系統は、すっかり同志の手に保持されています。万事オーケーです」

指導者鬼川は、満足そうに肯いた。

「放送準備が出来ましたよ」

奥の方から、これも電気係りの団員が、大声で報せて来た。

「よおし。では、始めよう」

鬼川は、チラリと時計を出して、云った。

「午後九時四十分か。保狸口君、手筈どおり全国アナウンスをして呉れ給え」

保狸口と呼ばれた団員は、ニヤニヤと笑うと、ポケットから細く折った半紙をとり出して、マイクロフォンの前に立った。

「J、O、A、K」

素六や紅子たちは、その声を、何処かで、聞き覚えのある声だと思った。

「大変お待たせをいたしました」保狸口は云うのだった。「唯今やっと、放送許可が出ましたような次第でございます」

素六は、やっと、気がついた。保狸口という男は、地声か、声帯模写かはしらないが、声だけ聞いていると、なんのことはない、放送局の杉内アナウンサーと、区別のつかない程似た声音をもって居り、その音の抑揚に至っては、よくも真似たものだと、感心させられた。