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くうしゅうけいほう
空襲警報
海野 十三
「少年倶楽部」別冊付録、大日本雄弁会講談社、1936(昭和11)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,838 字 · 92 页
「ナニ非常呼集……」
中尉はハッとした面持で、露子の顔を見た。露子もハッとしたが、武人の妻だ取乱しもせず奥にかけこんで、軍服の用意にかかった。
「義兄さん、お出かけですか」
「ウン旗男君。これはひょっとすると、今夜あたりから、物騒なことになるかも知れんぞ」
「物騒って、これ以上に物騒というと……アーもしや空襲でも」
「そうだ。なんともいえんが、S国の爆撃機が行動を起したのかもしれない。早ければ、ここ二、三時間のうちに敵機がやってくるかもしれない」
「ええッ、本当ですか。たった二、三時間のうちに……」
「距離が遠いといっても、○○○○から七百五十キロばかりだ。時速三百キロで、まっすぐにくるなら二時間半しかかからぬ。……とにかく、敵もさる者で、全くの不意打らしいぞ」
敵の飛行隊の根拠地から、二時間半しかかからないと聞くと、さすがに距離の近さがハッキリ頭に入ったような気がした。
川村中尉は、露子の抱いてきた正坊の寝顔を、太い指先でちょっとついてみたがそのまま起しもせず、暗い戸外に出ていった。西空には、糸のように細い新月が冷たく光っていた。沼田一等兵はもうサイド・カーのエンジンをかけて、中尉の乗るのをいまやおそしと待っていた。