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とってい
突堤
宮本 百合子
「中央公論」1935(昭和10)年10月「中央公論」五十周年記念特大号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,221 字 · 15 页
入るのと、弁当を買わなければならないという亢奮事のため、独特の印象をもっていた。構内の空地に生木の匂いの高い木材が柵の遠くの方まで積み重ねられ、そこへカッと斜陽が照りつけ、松林では蝉が鳴きしきっているような午後の人気ない停車場などで、汽車は長い間とまった。そして、蒸気の音ばかりさせる。
私は居眠りをした。暑くてたまらなくなると、窓から氷を買ってハンケチに包み、それをハンケチの上から吸った。そのハンケチも、汗と煤とで、郡山へ着くまでには真黒であった。
一ヵ月ほどおばあさんのところで暮すと、私の言葉には田舎の尻上りな調子が、すっかりうつった。東京へかえるときには、きまって枝豆と玉蜀黍を入れた重い縞の風呂敷包みを持たされた。その風呂敷包みを蹴込みに入れ、私をのせた俥が桑畑の間の草道をまわって埃っぽい街道の上へ現れる。すると、私はいくら首を捩ってももうこれ以上後は向かれないところへ行くまで、右手の小高い丘に向って、朝日を受けている俥の上から手を振った。その高みの楓の生垣の上には遠くおばあさんの立姿がいつ迄も動かず見えていた。おばあさんの小さい姿が見定められないところへ来ても、街道の俥の上からはまだ夏座敷の縁側と丸く刈り込んだ檜葉の庭木が見えた。