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とってい

突堤

宮本 百合子

「中央公論」1935(昭和10)年10月「中央公論」五十周年記念特大号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,221 字 · 15 页

青空文庫

程なく手にカンナの花の剪ったのをもって帰って来た。

「本当に、おばあさん、あした行くんでしょ?」

「そうよ、しか」

夜になって茶の間に風呂貰いの人々が集ると、おばあさんは炉辺でぐるりと皆に茶を注いで出しながら、

「あしたは孫どもをひとつ猪苗代湖さでもつれてって呉れべえと思ってなし」

などと、どこか改った言葉つきで云った。私共は傍に並んで坐って、そんな応答を聴いている。それは、何だかふだんとはちがう夜に感じられるのであった。

翌る朝目が醒めると、もう家じゅうが開け放されていて、おばあさんが一人で茶の間にいる。生憎曇って、茶の間からいつも見える山がその朝は見えなかった。それでも、弟たちがステーションへ先発した。おばあさんと私とは俥で、後から家を出かけた。

ステーションの在る町は村から小一里離れていた。田圃の中にポッツリ一軒唐傘屋があって、そこから次第に餅屋、蚕種試験所と町並が始るのであったが、恰度二台の俥がつづいて左手に高い石崖のある小学校の角を停車場通りに向って曲った時であった。ジリーンと妙に濁ったベルの音が一つ響いたと思うと、二間ばかり先を駈けていたおばあさんの俥が、幌へ風でも孕んだような工合にスーと後へ顛覆した。