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ぬすむおんな
窃む女
黒島 伝治
1923(大正12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,734 字 · 18 页
隣家を外から伺うと、人声一つせず、ひっそりと静まりかえっていた。たゞ、鶏がコツ/\餌を拾っているばかりだ。すべてがいつもと変っていなかった。でも彼は、反物が気にかゝって落ちつけなかった。
彼は家のぐるりを一周して納屋へ這入って見た。四ツに畳んできっちり重ねてあった蓆がばらばらにされていた。空俵はもと置いてあった所から二三尺横に動いていた。
「こりゃ、この下に一度かくして、また取り出したんだな。」彼はこんなところへ気をまわした。「こんなところはなお人が注意するからだな。」
寒気で、肌がぞく/\した。彼は屋内に這入って寝床に這入ろうとした。すると敷布団が不自然に持ち上っているのを見た。
「こんなところに置いちゃいかん! すぐばれてしまうじゃないか。これをかくしておくことが肝腎なんじゃ。」
彼は部屋の中を見まわした。どこへかくしたものかな。――壁の外側に取りつけた戸袋に、二枚の戸を閉めると丁度いゝだけの隙があった。そこへ敷布団から例のものを出して、二寸ほどの隙間に手をつまらせないように、ものさしで押しこんだ。戸袋の奥へ突きあたるまで深く押しこんだ。
「これで一と安心!」