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まどにさすかげ

窓にさす影

豊島 与志雄

「小説公園」1952(昭和27)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,068 字 · 26 页

青空文庫

女は安心して、電燈を消して寝た。

――そのようなことが何度かあった。そして男の方も女の方も、相手の顔が時々のっぺらぽうになるのは、あまりその顔を撫ですぎたからだと考えた。けれど、その顔のことや自分の考えのことは、胸の中に秘めて、相手には打ち明けなかった。そして次第に、夜眼を覚しても、相手の顔を撫でなくなった。

それだけの話なのである。けれど、つまらない話だといくら思っても、私の頭からそれが消えなかった。ばかりでなく、私は実際、のっぺらぽうの顔を見た。

その晩、祖母の気分がだいぶよいようだから、私は自分の室にはいって、久しぶりに、ドストエフスキーの飜訳小説の続きを読んだ。けれど、睡眠不足が重っていて、頭が冴えないので、早めに寝た。鏡台も机も縁側の方を向いており、蒲団も縁側の方を頭にして敷くことになっている。それで、横向きに寝ると、窓が真正面に見える。暫くとろとろとして何かの気配に眼を開いてみたら、窓の硝子戸の一枚だけが、ぼーっと明るかった。その明るいところに、なんだか物影がさしていた。見ていると、物影は伸び上って、それが、眼も鼻も口もないのっぺらぽうの顔だった。