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くぼかわいねこのこと
窪川稲子のこと
宮本 百合子
「文芸首都」1935(昭和10)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,197 字 · 7 页
私は、互の仕事と生活とが困難になってから、稲子さんというひとの非常な粘りづよさ、堅忍、正義感、周密さなどを益々高く評価し、生涯の友と信ずるようになっていたのだが、この何でもなく話されたことは寧ろ私を愕かせ、又新たな稲子さんの一面に打たれた。稲子さんは、互の友情にも甘えないひとである。センチメンタルなところがすこしもない。これは女として新しいタイプであり、その点、稲子さんの良人となり友人となる者にとっては、或るこわさがある。対手を高める力として作用する隠されたこわさがある。稲子さんは、例えば私にしろ、私たちとしての立場から見て妙なことでもすれば、のほほんと馴れ合ってはしまわない。自分自身に対してもそのことは同じであると思わせるものを、日頃の生活態度に蔵しているのである。
従って、プロレタリア作家としての自身の発展に対しても、稲子さんは、ずるずるべったりなところがない。このことは、或る場合、現在のような時期には、複雑な内容で彼女を苦しめることも、私にはよく理解されるように思う。プロレタリア作家として窪川稲子は、作品の或る情趣とか、リリカルな効果とかそんなものでは安心しない深く真面目な芸術家としての感覚をもっている。