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りっしゅんのたまご
立春の卵
中谷 宇吉郎
「世界」1947(昭和22)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,450 字 · 17 页
と記者が書いているところをみると、記者の人にも何か承服しかねる気持が残ったのであろう。何といっても、五日の夜中の実験に立会って、零時五十一分に十個の卵がちゃんと立ったのを目のあたり見ているのだから、それだけの説明では物足りなかったのも無理はない。
もう少し親切な説明は、『毎日新聞』に出ていた気象台側の話である。「寒いと中味の密度が濃くなって重心が下るから立つので、何も立春のその時間だけ立つのではない」というのである。それもどうも少しおかしいので、紐育のジャン夫人の居間なんか、きっと夜会服一枚でいいくらいに暖くなっていただろうと考える方が妥当である。もう一つはどこかの大学の学部長か誰かの説明で、卵の内部が流動体であることが一つの理由であろうという意味のことが書いてあった。そして立春の時でなくてもいいはずだということがつけ加えられていた。ラジオの説明は、私はきかなかったが、何でも寒さのために内部がどうとかして安定になったためだというのであったそうである。
それらの科学者たちの説明は、どれも一般の人たちを承服させていないように思われる。一番肝心なことは、立春の時にも立つが、その外の時にも卵は立つものだよと、はっきり言い切ってない点である。