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りっしゅんのたまご
立春の卵
中谷 宇吉郎
「世界」1947(昭和22)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,450 字 · 17 页
大切な実験を中絶させたのだから、それくらいのことは仕方がない。
今度のは大小二つあって、大きい方は尻の形が少し悪いらしく、なかなか立たない。しかし小さい方はすぐ立たせることが出来た。そこでその方を早速ゆでてもらうことにして、その間に大きい方にとりかかった。なるべく垂直になるように立てて、右手の指で軽く頭をささえ、左手で卵を少しずつ廻転させながら、尻の坐りと机の僅かな傾斜とが巧く折れ合うところを探しているうちに、ちゃんと立ってくれた。十分くらいかかったようである。要するに少し根気よくやって、中心をとることさえ出来れば、大抵の卵は立派に立つものである。
その間にゆで卵の方が出来上った。水に入れないでそのまま持って来させたので、熱いのを我慢しながら中心をとってみた。すると今度も前のように簡単に立てることが出来た。寒さのための安定云々も、流動性の何とかも、問題は全部あっさり片付いたわけである。念のために殻をとり去って、縦に二つに切ってみた。黄味は真中にちゃんと安座していた。何の変りもない。黄味の直径三十三粍、白味の厚さが上部で六粍、底部で七粍、重心が下っているなどということもない。