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たちがれ
立枯れ
豊島 与志雄
「改造」1933(昭和8)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,613 字 · 41 页
あのひとのように、やたらに貯蓄ばかりして、脂肪を皮下に死蔵するのは、まだいい方かも知れないが……。」
「いい体質じゃないんだね。」
「え?」と小泉は一寸眼をあげたが、「ああ、あのひとか、そんなところまでは分らないが、脂肪肥満は、とかく、新陳代謝の邪魔になることがあるようだね。」
実際、どこか新鮮さの足りない身体だと、中江はまたもキミ子のことを考えるのだった。そこへ、小泉のところへ電話がとりつがれて、三時すぎに来て貰えまいかとの知人の頼みだった。折角の日曜もこれだからと、小泉は不平をこぼすのだったが、中江から見れば、研究旁々病院に勤めていて、知人の患者だけを面倒見てやる彼の落付いた生活が、余りに散漫で中心点のない自分の生活に比べて、羨ましくなるのだった。と共にまた、心の憂欝や実際的な悩みを、小泉の明朗な精神の前にぶちまけてしまいたい欲求も感じたが、それが出来にくい卑屈さを見出すと、何かに駆り立てられるような慌しい気持になって、席にゆっくり落付いていられなかった。
中江は伯父の没落以来、自力で生活を立直す覚悟で、私立大学の語学講義の時間を増して貰うよう、その専任の人に頼んでおいたし、なお、或る書肆と、アンリ・ファーブルの普及版全集の出版契約をして、先ず少年のための読物から次に昆虫記へと、順次に飜訳してゆくつもり