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たこのきのしたで
章魚木の下で
「新創作」1943(昭和18)年新年号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,091 字 · 5 页
ノンビリした考えどころではない、てんで何も考えなかったのだ。戦争は戦争、文学は文学。全然別のものと思い込んでいたのだ。己に課せられた実務が目下の所第一の急務で、他は顧みる暇がない。稀に暇があった時にのみ些かは文字を連ねることもあったが、必ずしも文学作品という意識を以てではない。書くものの中に時局的色彩を盛ろうと考えたこともなく、まして、文学などというものが国家的目的に役立たせられ得るものとは考えもしなかった。少くとも応用科学が戦争に役立つと同じ意味で文学が戦争に役立ち得るとは愚かにも思い及ばなかったので、此の際文学は忘れ去って唯当面の仕事を一心にやっていればいいのだと簡単に考えた。国民の一人として忠実に活きて行く中に、もし自分が文学者なら其の中に何か作品が自然に出来るだろう。しかし出来なくても一向差支えない。一人の人間が作家になろうとなるまいと、そんな事は此の際大した問題ではない。其の程度のボンヤリした考えで東京へ出て来たものだから、種々な微妙複雑な問題の氾濫にすっかり吃驚したのである。成程、文学も戦争に役立ち得るのかと其の時始めて気が付いたのだから、随分迂闊な話だ。