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どうてい

童貞

夢野 久作

「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页

青空文庫

「……私は本当の事を申し上げます。私は夫のバトラを殺したのでは御座いません。バトラは事業に失敗しましてコッソリと亜米利加に帰ったので御座います。……妾も、その後を逐うて亜米利加に渡ろうとして横浜の警察の誤解を受けましたために、こんなに苦労を致しているので御座います。一時も早く夫に会いたいと存じまして……」

「……妾は皆様のお察しの通りラシャメン瑠璃子に違い御座いません。本名もお察しの通り小野原ノブ子に間違い御座いません。何度も夫に死に別れた不幸な女で御座います。……けれども……けれども今までに悪い事をした覚えは一度も御座いません。……神かけて御座いません事をお誓い致します」

「……どうぞ、どうぞお願い致します。もし今夜一晩、私をお見逃がし下さいますれば、どのようなお礼でも致します。きっと……きっと致します。その……お印に……こんな……つまらないものでも……旦那様さえ……およろしければ……」

彼女はシドロモドロにこんな言葉を並べた。その切れ目切れ目に二度も三度も両手を合わせて拝み上げながら、すこしずつ彼の方に這い寄って来た。そうしてズボンのポケットから青黒い大きな宝石を一個取り出して、大の字型に投げ出した彼の右の掌に握り込ませると、その上からシッカリと両手で押えつけながら眄目に彼を振り返った。