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どうてい

童貞

夢野 久作

「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页

青空文庫

昂作は尻餅を突いた拍子に眼がまわり出したので、両手を砂ほこりの中に支えたままガックリとうなだれた。……と……間もなく、まわりに寄り集まって来る人々の足もとから立つ薄いホコリの中に、息も絶え絶えに噎せ返ってしまった。

その頭の上からサアベルのガチャガチャ言う音と、二人の男のヒソヒソした会話が聞えて来た。

「この乳母車だろう」

「そうだ。たしかにこれだ。瑠璃子が押して行ったのは……」

「……シッ……包みの中を検めて見給え」

「……ウン……一寸待ってくれ給え……アッ……これだこれだ……最前まで着ていたのは……ホラ。絽の帯も……ヴェールも……アッ……束髪の仮髪だこれは……畜生……どこかで変装しやがったナ」

「……チェッ……」と一人の私服らしい男が舌打ちした。黙って乳母車を引き起しながら、中を調べているらしかった。

「オイオイ……」と制服の巡査がサアベルの尻で昂作の背中を突っついた。

「……貴様はこの乳母車を……どこで頼まれたんか……」

昂作はその声を耳の傍で聞きながら、どうしても返事が出来なかった。やっと咳が鎮まりかけたばかりのところで、ピッタリと息を詰めて気を落ちつけなければならなかったので、両脚を投げ出したままヒッソリとうなだれていた。