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きょうそう
競漕
久米 正雄
「新思潮」1916(大正5)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,312 字 · 34 页
それには文農二科が来賓として混合競漕をするはずになっていた。混合というのは敵味方の中堅――三番四番――を交換して漕ぐのである。この時が敵味方初めて正式に顔を合わせるの時であった。双方の艇は一緒に台船のところで順序の来るのを待っていた。選手の中では高等学校の関係から知った顔もあるので互いに挨拶などをし合った。それからまるで艇のこととは関係のない問題を何か話し合っていた。文科の整調の窪田は農科の舵手の高崎と同じ中学を出て同じく一高に入った親友であった。しかし高等学校の時からしばしば敵対の地位に立たせられて来たので、何となく疎隔されてしまい、今では二人はまるで外出行きの話しかしなくなってしまった。二人は出身地方の土語を用いて妙な蟠りのある話を始めた。それも、
「今年はいつもよりお寒うござすな」というような当り障りのないことを言うのであった。そしてたまたま艇のことに及んでもお互いに冷たい好意で敵手のことを賞め、わざとらしいまでに自分の方を謙遜した。彼らはお互いに自分の方を「駄目ですよ、僕の方こそ駄目ですよ」なぞと言い合った。こうしているうちには誰れでも敵味方で二三言は言葉を交した。