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きょうそう
競漕
久米 正雄
「新思潮」1916(大正5)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,312 字 · 34 页
と言ったなり飯を食い初めた。窪田は遠漕の話をぼつぼつしながら、「何しろ四日間ずっと天気がよかったんだからなあ。春の方がずっと日に焼けるよ。一つには油断して日に顔を晒すせいもあるし、徐々と焦げて来るんですぐ脱ちないせいもある」などと言った。久野は少しく浅ましいような思いで皆の飯を食うのを待っていた。二番を漕いでいる早川なぞは久野の目の前で何とか申しわけをいいながら七杯目の茶碗を下婢の前に出した。そしておまけに卵を五つ六つ牛鍋の中に入れて食べた。しかしその無邪気な会話と獣性を帯びた食欲の裏に、一種妙な素朴な打ち融けた心持が一座の中に流れているのを久野はすぐ感知した。
食後には皆が一間に集まって雑談した。女の人の話なんぞもかなり修飾のない程度で交わされた。が主な話は遠漕中の失策とか、練習中の逸話とかであった。そしてその合間合間に「短艇なぞは孫子の代までやらせるもんじゃない」とか、「もう死ぬまで櫂は握りたくない」とか言う冗談の下に、練習の苦痛が訴えられた。主将の窪田は黙って笑いながらそれを聴いていた。そして自分も高等学校の時、練習の苦るしさに堪えかねて合宿を逃げ出したが中途でつかまった話なぞして聞かせた。