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けいば

競馬

織田 作之助

「改造 第二十七巻第四号」改造社、1946(昭和21)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,134 字 · 24 页

青空文庫

そして次の競走でふらふらと馬券を買うと、寺田の買った馬は百六十円の配当をつけた。払戻の窓口へさし込んだ手へ、無造作に札を載せられた時の快感は、はじめて想いを遂げた一代の肌よりもスリルがあり、その馬を教えてくれた作家にふと女心めいた頼もしさを感じながら、寺田はにわかにやみついて行った。

小心な男ほど羽目を外した溺れ方をするのが競馬の不思議さであろうか。手引きをした作家の方が呆れてしまう位、寺田は向こう見ずな賭け方をした。執筆者へ渡す謝礼の金まで注ぎ込み、印刷屋への払いも馬券に変り、ノミ屋へ取られて行った。つねに明日の希望があるところが競馬のありがたさだと言っていた作家も、六日目にはもう印税や稿料の前借がきかなくなったのか、とうとう姿を見せなかった。が、寺田だけは高利貸の金を借りてやって来た。七日目はセルの着物に下駄ばきで来た。洋服を質入れしたのだ。

そして八日目の今日は淀の最終日であった。これだけは手離すまいと思っていた一代のかたみの着物を質に入れて来たのだ。質屋の暖簾をくぐって出た時は、もう寺田は一代の想いを殺してしまった気持だった。そして、今日この金をスッてしまえば、自分もまた一代の想いと一緒に死ぬほかはないと、しょんぼり競馬場へはいった途端、どんより曇った空のように暗い寺田の頭にまず閃いたのは殺して