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わらうおしおんな
笑う唖女
夢野 久作
「文芸」1935(昭和10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,719 字 · 31 页
ヘエ。去年の夏の末頃までこの裏山に住んでおりまして、父親の跛爺の門八は、村役場の走り使いや、避病院の番人など致しておりましたが……」
「フーム。村の厄介者じゃったのか」
「ヘエ。まあ云うて見ればソレ位の人間で御座いましたが、それが昨年の秋口になりますと大切な娘のこの唖女が、どこかへ姿を隠しましたそうで、門八爺は跛引き引き村の内外を探しまわっておりますうちに、あの土蔵の中で首を縊って死んでおりました事が、程経てわかりましたので大騒動になりましてな」
「ウムウム」
「それから後、この唖女の姿を見た者は一人も居りませんので……ヘエ……」
「ふうむ。誰が逃がいたのかわからんのか」
「ヘエ。それがで御座います。御覧の通り唖娘の上に色情狂で、あの裏山の中の土蔵の二階窓から、山行の若い者の姿を見かけますと手招きをしたり、アラレもない身振をして見せたり致しますので、跛の門八爺が外に出る時には、必ず喰物を内に残いて、外から厳重と締りをしておったそうで御座います。それでも門八が帰りがけには、途中で拾うた赤い布片なぞを持って帰ってやりますとこの花子奴が……この娘の名前で御座います……コイツが有頂天も無う喜んでおりましたそうで、その喜びようが、あんまりイジラシサに門八爺が時々、なけなしの銭をハタいて、安物の練白粉や、口紅を買うて帰ってやっ