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はこねのやま
箱根の山
田中 英光
「文藝春秋 別冊2」1946(昭和21)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,963 字 · 33 页
と繰返し、果ては、「ボクもう厭だ」なぞ路にエンコしてしまうので、あまり騙すのも不憫になり、到頭、もう二曲りか三曲りで山頂に出られそうな路の角で、物凄く藪、茨に覆われた急斜面の小路を発見すると、「一郎、こんな近路でも登って見るかい」、「ウン」勇み立った返事だった。
見下ろせば、その斜面は少し下から、いきなり断崖になり赭い地肌を見せて谷底まで続いていた。もし落ちれば生命がないと、一人で登らせるのは不安だったが、獅子は三日にしてその仔を谷底に落す、なぞ無茶苦茶に昂奮して、「じゃあね、お父さんはこの広い路を行って、先に上で待っているから、一郎独りで登ってこられるかい」、「ウン」
一郎は張切った返事で、小さな身体を丸め、亀の子のように小さな手足をよちよちさせ、もう藪の中をがさこそ這い上り始めた。もし一足でも踏みはずしたら、谷底まで真っ逆様だと胸の凍るような不安もあったが、その不安よりもムヤミに子供を鍛えたい気持のほうが強く、「こらッ一郎ッ、しっかり登れよッ。木の根を掴み掴み登って、決して手を離すんじゃないよッ」と大声に叫びかけ、子供が、「ウン」とコックリしながら、直ぐに一間ほど登ってしまったのを見ると、幾らか安心して、自分は広い街道を急いで駆け登り、左に折れ、一郎が出て来そうな小路の前で、また幾らか心配になりながら