轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
はこねのやま
箱根の山
田中 英光
「文藝春秋 別冊2」1946(昭和21)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,963 字 · 33 页
蘆湖だ。静かな湖を包む蒼い山々の襞、その手前に一群れの人家は、目的の元箱根の街に違いない。そこまで降りれば前日も昼の定食があった位だから、なにか食物もあるだろうし、帰りのバスもある。
私は一つの苦難を乗り越えて来た後の嬉しさに、感動して眺めていれば、再び眼に見える自然は生々と美しく見え出してきた。湖の方向からやにわに続けざまに吹きつけて来る凛烈な風、湖面には一杯の白波が寒いほど眼に鮮かに映り出して来た。「一郎ッ、ごらんよ、湖だ」、「ヤッ、ほんとだッ」一郎は眠気が覚めたらしく、幼い身体を伸び上がらせ、湖を見ていたが、「お父さん、降ろして。もう一人で歩くから」と身体に生気の蘇った感じで、手足をぴんぴんさせた。それは丁度、最前、お山に登るんだと言い張って、茨や藪の山路に求めて顔を突っ込んで行った、あの幼児の逞しさからだろう。私は重荷を降ろす嬉しさよりも、そうした彼の幼い逞しさが嬉しくて大切に子供を降ろしてやると、一郎は栗鼠のように眺ねながら、殆んど、残雪も玉石もなくなって来た、その小路を、湖に向かい元気に駆け降りて行った。