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はこねあたみバスきこう

箱根熱海バス紀行

寺田 寅彦

「短歌研究」1935(昭和10)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,181 字 · 11 页

青空文庫

という靴屋を間違えて「ナポレオン」と云った友達がいるそうである。しかし雀と鴨では少し大きさが違い過ぎると云って笑った。雀の宮は日光の近くにあったのである。

小田原ではバスが待っていたが、箱根町行は満員なので空席のあった小涌谷行に乗込んだ。湯本までの道路は立派なドライヴウェーである。小田原征伐当時の秀吉に見せてやりたかったという気もした。塔の沢あたりからはぽつぽつ桜が見え出した。山桜もあるが、東京辺のとは少し違った種類の桜もあるらしい。関東地震や北伊豆地震のときに崩れ損じたらしい創痕が到る処の山腹に今でもまだ生ま生ましく残っていて何となく痛々しい。

宮の下で下りて少時待っているうちに、次の箱根町行が来たが、これも満員で座席がないらしいので躊躇していたら、待合所の乗客係が気を利かして居合わせたハイヤーを別に仕立ててバス代用に提供してくれた。のろい人間もたまに得をすることがあるのである。小涌谷辺は桜が満開で遊山の自動車が輻湊して交通困難であった。たった一台交通規則を無視した車がいたため数十台が迷惑するというのがこういう場合の通則である。「クラブ洗粉」の旗を立てた車も幾台かいた。