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かんざしをさしたへび
簪を挿した蛇
中谷 宇吉郎
「文藝春秋」1946(昭和21)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,681 字 · 20 页
寺田先生の言葉を借りれば、それは「生命の不思議を細胞から原子に移したというのみで原子の不思議は少しも変りはない」のである。
人聞には二つの型があって、生命の機械論が実証された時代がもし来たと仮定して、それで生命の神秘が消えたと思う人と、物質の神秘が増したと考える人とがある。そして科学の仕上仕事は前者の人によっても出来るであろうが、本統に新しい科学の分野を拓く人は後者の型ではなかろうか。科学知識の普及も結構ではあるが、原子や分子を日常茶飯事の如く口にするだけでは無意味である。それは得るところが何もなくて、反対に物質の神秘に対する驚異の念を薄くするような悪影響だけが残る虞れが十分ある。
以上の話は、戦前の日本の科学についても言えることであるが、終戦後の科学再建については、一層大切なことのように自分には思われる。戦前の悪夢時代には、科学というものは、意識的な場合も無意識的な場合もあろうが、結局は外国に負けないような飛行機を作るとか、重工場を進歩させるとかいう風な工業技術の基礎として、一般に考えられていた。そういう意味での科学ならば、いわゆる科学普及でも結構であろう。