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かんざしをさしたへび
簪を挿した蛇
中谷 宇吉郎
「文藝春秋」1946(昭和21)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,681 字 · 20 页
この雨天体操場は、式や会の時には講堂となり、休み時間には児童の遊び場であった。実際は雨天体操場などという新しい名前はなくて、私たちは溜りと呼んでいた。十分の休み時間には、この溜り一杯胡麻を散らしたように、児童たちが真黒く群って走り廻っていた。その中には四十年前の自分もいたわけである。柱が沢山あるので、陣取りには誂え向きであった。五組も十組もの陣取りが、それぞれ好みの柱の群を占領して、縦横に馳け廻るので、呼び声叫び声が、薄暗いこの体操場に一杯に満ちあふれていた。
薄暗いといえば、この体操場の奥の半分、柱が林立していたところは、昼でも本など読めないくらい暗かった。その中心部に、何のあとかは考えたこともなかったが、三尺四方の四隅に、四本の柱が立っているところがあった。林立する柱の中で、この四本の柱だけが何となく目に立った。其処は「四本柱」という名前がついていた。何か気味の悪いところで、子供たちの間には、一種の魔所に考えられていたようであった。何年の時か忘れたが、この「四本柱」の床の下には、女の髪の毛が埋められているという風説が流布され、私たちは真面目にそれを信じていた。