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こうもうけいせい

紅毛傾城

小栗 虫太郎

「新青年」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页

青空文庫

「私、たいへん寒いんですの。もう凍え死にしそうですわ。いえいえ決して、あなたがたの敵ではございませんから」

それはともすると、打ち合う歯の音に、消されがちだったけれど、紛れもない魯西亜言葉だった。

「うむ、はもちろん、場合によっては、家も衣も、進ぜようがのう。したが女、そちはどこからまいったのじゃ」

そう言いながら、自分の唇に、濡れた相手の腋毛を、しごきたいような欲情に駆られ、横蔵はぶるると身を震わした。

「言うまでもありませんわ。あの軍船、アレウート号からでございます。実は、十日ほど前から、悪疫に襲われまして、すんでのことに、私も水葬されるところだったのでした。でも、御安心あそばせな。私はただ、一つの部屋におりましたというのみのこと、伝染るのを恐れて、投げ入れられましたなれど、実はこのとおり健やかなのでございますから」

女の心臓が、横蔵のそれほど、激しく鼓動してないことは、言葉つきでも知れた。そして、静かに顔をめぐらして、岩城の明かりを、もの欲しげに見やるのだったが、その時、軍船の舵機が物のみごとに破壊された。新しい囚虜を得た、歓呼の鯨波が、ドッといっせいに挙がる。