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こうもうけいせい

紅毛傾城

小栗 虫太郎

「新青年」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页

青空文庫

「なに、そもじはなんとお言いやった――たしか、ザルキビッチュ・ステツレルと、私は聴きましたが。ではあの、ベーリングの探検船『聖ピヨトル』号に乗り込んだ、博物学者のステツレルはそもじの父なのか」

フローラは、それを眼色でうなずいて、むしろ冷たく言い返した。

「もっとも、母のドラと従妹だったせいもあるでしょうが、父とベーリングの仲は、それはまたとない間柄だったのです。私は、出発の朝――それが六つの三月でしたけれども、二人には雪割草の花束を贈り、また二人からは、頭をなでられたのを、記憶しております。ところが、ベーリング様は、翌年の十二月八日に、ベーリング島でお亡くなりになりました。父も最初は、チウメンで、その五年後に凍死したという、噂を立てられましたのです。それが気病みとなって、ほどなく母は、私を残してこの世を去ってしまいました。

ところがそれからも、私の不仕合せはいつから尽きようとはいたしませず、慈悲も憫れみもない親族どもは、私をカゴツ(中欧から北にかけて住む一種の賤民)の群れに売り渡してしまったのです。そうして、普魯西から波蘭を経て、魯西亜の本土に入り、それからは果てしのない旅を続けました。