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なっとうかっせん

納豆合戦

菊池 寛

「赤い鳥」1919(大正8)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,774 字 · 8 页

青空文庫

「もう、旦那さん、勘忍して下さい。ホンのこの坊ちゃん達のいたずらだ。悪気でしたのじゃありません。いい加減に、勘忍してあげてお呉んなさい。」と、まだ眼を光らしているお巡査さんをなだめました。見ると、お婆さんは、眼に一杯涙を湛えているのです。お巡査さんは、お婆さんの言葉を聞くと、やっと吉公の手を離して、

「お婆さんが、そう言うのなら、勘弁してやろう。もう一度、こんなことをすると、承知をしないぞ。」と、言いながら、向うへ行ってしまいました。すると、お婆さんは、やっと安心したように、

「さあ、坊ちゃん方、はやく学校へいらっしゃい。今度から、もうこのお婆さんに、悪戯をなさるのではありませんよ。」と言いました。私は、お婆さんの眼の見えない顔を見ていると穴の中へでも、這入りたいような恥しさと、悪いことをしたという後悔とで、心の中が一杯になりました。

このことがあってから、私達がぷっつりと、この悪戯を止めたのは、申す迄もありません。その上、餓鬼大将の吉公さえ、前よりはよほどおとなしくなったように見えました。私は、納豆売のお婆さんに、恩返しのため何かしてやらねばならないと思いました。