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けっこん

結婚

中 勘助

「朝日評論 第一巻第一号」朝日新聞社、1946(昭和21)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,520 字 · 11 页

青空文庫

さあどうぞ と座敷へ案内して石摺りの手本なぞ出し話し始めたところへ来客でその日はそれだけになった。私のほうは 貰ってもいい ということで文枝さんはお友達にうち明け「琅」と「沼のほとり」を貸して気心の知れるまで暫くつきあってみるようにすすめ、もう一度つれてきておいていった。お友達は巧く計略にかかった自分を思い出しておかしそうに笑った。はにかむ年ではなし、話題は芸術的方面にあるし、何かと話したのち私は先方のためゆっくり考えてから諾否をきめるようにいって別れた。その後文枝さんからお友達が私に逢い私の著書を読んで もうのばす必要はないから早く話を進めたい といってるときいたのでその次に逢った時に

「そんなに早まってもし私が狸の化けたのだったらどうします」

といったら

「狸の化けたのでもいい」

といって笑った。化けたほうでたじたじとなる。そこでお父様にどう切り出そうかが文枝さんの次の苦労になった。子供のじぶんから往来して至極心安いとはいえ軍人あがりの頑固なところもあり、それに日本流からいえば事の運び方が逆なのだ。という訳は、お父様というのが子煩悩のせいもあるかとても石橋を叩いて渡るほうでこれまでいくら縁談をもっていっても纏まったためしがない。