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えほんのはる

絵本の春

泉 鏡花

「文藝春秋 第四年第一號」1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,447 字 · 13 页

青空文庫

そこへ……小路の奥の、森の覆った中から、葉をざわざわと鳴らすばかり、脊の高い、色の真白な、大柄な婦が、横町の湯の帰途と見える、……化粧道具と、手拭を絞ったのを手にして、陽気はこれだし、のぼせもした、……微酔もそのままで、ふらふらと花をみまわしつつ近づいた。

巣から落ちた木菟の雛ッ子のような小僧に対して、一種の大なる化鳥である。大女の、わけて櫛巻に無雑作に引束ねた黒髪の房々とした濡色と、色の白さは目覚しい。

「おやおや……新坊。」

小僧はやっぱり夢中でいた。

「おい、新坊。」

と、手拭で頬辺を、つるりと撫でる。

「あッ。」

と、肝を消して、

「まあ、小母さん。」

ベソを掻いて、顔を見て、

「御免なさい。御免なさい。父さんに言っては可厭だよ。」

と、あわれみを乞いつつ言った。

不気味に凄い、魔の小路だというのに、婦が一人で、湯帰りの捷径を怪んでは不可い。……実はこの小母さんだから通ったのである。

つい、(乙)の字なりに畝った小路の、大川へ出口の小さな二階家に、独身で住って、門に周易の看板を出している、小母さんが既に魔に近い。婦でト筮をするのが怪しいのではない。