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ぜっけいばんこくはくらんかい

絶景万国博覧会

小栗 虫太郎

「ぷろふいる」ぷろふいる社、1935(昭和10)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,752 字 · 31 页

青空文庫

平生ならば、夜気を恐れて、四時過ぎにはとうに雨戸を鎖ざしてしまう筈のお筆が、その日はどうした事か、からりと開け放っているばかりでなく、縁に敷物までも持ち出して、その上にちんまり坐っているのだった。それだけの事なら何処に他奇があろうぞと云われるだろうが、その時、或は、お筆が狂ったのではないかとも思われたのは、彼女があろう事かあるまい事か、襠掛を羽織っているからだった。全く、八十を越えて老い皺張った老婆が、濃紫の地に大きく金糸の縫い取りで暁雨傘を描き出した太夫着を着、しかも、すうっと襟を抜き出し、衣紋を繕っているのであるから、それには全く、美くしさとか調和とか云うものが掻き消せてしまって、何さま醜怪な地獄絵か、それとも思い切って度外れた、弄丸作者の戯画でも見る心持がするのだった。然し、次第に落ち着いて来ると、お筆が馳せている視線の行手に杉江は気が付いた。それがいつもの通り、口を屹っと結んでいて、その※形の頂辺が殆んど顔の真中辺まで上って来ているのだが、その幾分もたげ気味にしている目窪の中には、異様に輝いている点が一つあった。そして、そこから放たれている光りの箭が、遠く西の空に飛んでいて、寛永寺の森から半身を高く現し、その梢を二股かけて踏んまえている大観覧車に――はっしと突き刺っているのだ。