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ぜっけいばんこくはくらんかい
絶景万国博覧会
小栗 虫太郎
「ぷろふいる」ぷろふいる社、1935(昭和10)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,752 字 · 31 页
所が、そのお筆には、何十年この方変らない異様な習慣があった。全く聴いただけでさえ、はや背筋が冷たくなって来るような薄気味悪さがそれにあったのだ。と云うのは、鳥渡因果噺めくけれども、お筆が全盛のころおい通い詰めた人達の遺品を――勿論その中には彼女のために家蔵を傾け、或は、非業の末路に終った者もあったであろうが――それを、節句の日暮かっきりに、別の雛段を設らえて飾り立てる事だったのである。
それ故、年に一度の行事とは云いながらも、折が折桃の節句の当日だけに、それが寮の人達には、何となく妖怪めいたものに思われていた。その滅入るような品々に、一歳の塵を払わせる刻限が近付いて来ると、気のせいかは知らぬが、寮の中が妙に黴臭くなって来て、何やらモヤモヤしたものが立ち罩めて来るのだ。そして、その翳が次第に暗さを加えて、はては光子の雛段にも及んで来ると、雪洞の灯がドロリとしたぬくもりで覆われてしまうのだった。然し、孫娘の光子にはそんな懸念は露程もないと見え、朝から家を外にの、乳母子のような燥しゃぎ方。やがて、日暮れが迫り、そろそろ家並の下を街灯点しが通る頃になると、漸く門内の麦門冬を踏み、小砂利を蹴散らしながら駆け込んで来たが、その折門前では、節句目当ての浮絵からくりらしい話し声――。