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ぜつえんたい
絶縁体
豊島 与志雄
「世界」1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页
「つまり、死亡通知を出すことによって、故人をすっかりわたし一人のものにすることが出来ると、分ってきたからです。」
その論理は私にはよく呑みこめなかったが、市木さんが故人のことを深く思いつめてることは、はっきり感ぜられた。
市木さんは故人の写真をどこにも飾らなかったが、その面影は私の頭にも残っていた。背は高い方で、痩せていて、学校から帰るとたいてい和服に着換えていた。あちこち継のあたってる銘仙の着物で、早く亡くなった母親の遺物なのであろうか、黒っぽいじみな柄であって、それに枇杷色の兵児帯をしめていた。髪は子供っぽく編んで背中に垂らしていた。少し出額の細面の顔立だったが、それがいつも没表情で、なんだか能面みたいに見えた。泣くことも笑うこともなさそうだった。しかも、表情のない能面みたいなその顔が、へんになまなましく、時によっては、はっとさせられるような感銘を与えた。
そういう面影を、市木さんはどういう風に受け取っていたのであろうか。死亡通知を出すことによって故人をすっかり自分のものにするとは、どういう意味だったろう。
ところで、その死亡通知のために、私は妙な場面に立ち会わされたのである。