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ぜつえんたい
絶縁体
豊島 与志雄
「世界」1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页
ただ住宅所有者や借家居住者が入り交っており、同居人もあり、借家の家主もまちまちだったので、費用は各戸の世帯主が負担するという立前になった。それについては、区劃内に比較的大きな家屋を持っていて、費用も別格となっている平野さんから、一時払いに難渋なひとには、金を立替えておくから月賦で返済して貰えばよいと、好意ある申し出があった。
それで、だいたいきまりかけたが、故障が一つあった。市木さんが承諾しなかったのである。最初から不服なので、後廻しにしたのだが、やはり承諾しなかった。嫌だという一言の返事だけで、相談のしようもなかった。もっとも、その一軒だけを飛ばして工事することも出来たが、折角足並の揃いかけたところだし、全部まとまるものならまとめたかったし、また、その一例によって、不服を言い出す者が他に出て来ないとも限らなかった。
そのことのため、近所の世話役とも言える人柄の竹田さんが、私のところへ頼みに来た。
「市木さんと懇意なのは、まあ、近所であなた一人だし、なんとか骨折ってみて下さいませんでしょうか。」
便所改造のことについては、私も承諾者の一人だったし、市木さんが不承知の旨も薄々は聞いていた。