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きぬとかみのはなしとしていのあいだがらのはなし
絹と紙の話と師弟の間柄の話
上村 松園
「塔影」1933(昭和8)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,245 字 · 7 页
どうさを引立ての絹ですと、どんなにゆっくりと線を引いていても、ちっともちぢむような心配はありませぬが、紙ですとサッサッと筆を走らせないとすぐに思いも寄らぬにじみが出来てしまいます。紙本の味は、少しでも筆が渋滞すればすぐににじみ勝ちの吸湿性があるのですが、それをにじませないように手早く筆を走らせた軽妙な筆味にあるわけでしょう。ところが、余程確かな筆でないとそう手早く軽妙に動いてくれませぬ。じっくり落着いて絹にばかり描き馴れた若い人達が紙本を扱っても容子に思うような絵の描けないのはもっともなことですが、しかし紙本の味は又、下描きをした上から丹念に描いた一点一劃間違いのないような精細確実な処にあるのではなくて、軽妙洒脱な筆の味ばかりでもなく、時には筆者さえも予想しなかったような、勢いに乗じて出来た妙味があります。この筆勢の妙味は時には再び繰返そうとしても到底繰返すことの出来ないようなものも出来ます。そこに何とも言えない紙本の味があると言えます。
この、絹本よりは紙本、生絹よりは涸らした絹、どうさ引よりは湯引、という関係がある種の柔かい味と生硬な味とを材料そのものからして持っているように思われます。