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かいだんいちやぞうし
綺堂随筆 江戸のことば
岡本 綺堂
岡本綺堂『綺堂随筆 江戸のことば』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪談一夜草紙、深川の老漁夫。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,152 字 · 27 页
今まで近所の評判もよく、殊に今度の帰参を祝っている最中に、こんな騒ぎが出来したのですから、町内の人たちも一層気の毒に思いましたが、こういう怪談になっては何とも手の着けようがありません。今まで広言を吐いていただけに、近所の手前面目ないと思ったのかも知れません、浅井さんは誰にも無断で、その晩のうちに何処へか立ち去りました。家財はそのままに残してあって、机の上にこんな置き手紙がありました。
前略。このたびは意外の凶事出来、御町内中をさわがせ申し候条、何とも申訳も無之候。取分けて藤吉どのには御気の毒に存じ申候。就ては其後の詮議仕りたく存じ候え共、何分にも帰参の日限切迫いたし居り候まま、其意を得ず候こと残念至極に存じ候。少々の家財、そのままに捨置き申し候間、よろしく御取計い被下度候。早々。
浅井宗右衛門
五月十六日
御町内御中
今日と違いまして、その当時のことですから、お話はこれでおしまいです。しかし怪談の噂はなかなか消えないで、ゆうべも振袖を着た女の子を見た者があったとか、どこの家の戸を叩かれたとか、いろいろのことを言い触らす者があるので、気の弱いわたくし共は日が暮れると外へも出られず、雨のふる晩などは小さくなって竦んでいる位でございます。