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じらいやのはなし
綺堂随筆 江戸の思い出
岡本 綺堂
岡本綺堂『綺堂随筆 江戸の思い出』。同一底本的分册已合并为一书。收入:自来也の話、餅を買う女、四谷怪談異説。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,924 字 · 14 页
それが主人の耳にもきこえたので、主人も大いに同情して、かれの為に色々の世話を焼いて結局お岩夫婦は元のごとくに同棲することになった。
主人のなさけも勿論であるが、これも日ごろ信ずる稲荷大明神の霊験であるというので、お岩は自分の屋敷内にも彼の稲荷を勧請して朝夕に参拝した。それを聞き伝えて、自分たちにも拝ませてくれと云う者がだんだんに殖えて来た。お岩はそれを拒まずに誰にもこころよく参拝を許した。その稲荷には定まった名が無かったので、誰が云い出したともなしにお岩稲荷と一般に呼ばれるようになった。こういうわけで、お岩稲荷の縁起は、徹頭徹尾おめでたいことであるにも拘らず、講釈師や狂言作者がそれを敷衍して勝手な怪談に作り出し、世間が又それに雷同したのである。お岩が鬼になったから鬼横町であるなどというのも妄誕不稽で、鬼横町などという地名は番町にもあるから証拠にはならない。
この説もかなり有力であったらしく、現にわたしの父などもそれを主張していた。ほかに四、五人の老人からも同じような説を聴いた。してみると、お岩稲荷について、下町派即ち町人派の唱えるところは一種の怪談で、山の手派即ち武家派の唱えるところは、一種の美談であるらしい。