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りょくいのおんな
緑衣の女
松本 泰
「秘密探偵雑誌」1923(大正12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,168 字 · 25 页
「そのような名前のお方はおられませんな。第一昨夜は新規のお客で、若い御婦人などはお宿りになりませんでしたよ。」支配人の言葉をきゝながら、泉原は何気なく帳場の壁に懸っている姿見に視線をやった時、鏡の中に緑色のドレスを纏った女の姿がチラと映った。彼はハッとして四辺を見廻すと、ホールの正面にあたった突あたりの階段を緑色のドレスを着た女が上ってゆくのを認めた。女は既に最後の段を上りきったところで、帳場の方に向って軽く支配人の挨拶に応えながら、階段の上に姿を没して了った。帳場に立っていた三人は期せずして言葉もなく女の姿を見送っていた。
「あれは誰です。遠くで確かには分らないが、あれは私の捜しているグヰンのようです。」泉原が最初に口をきった。
支配人は途方もないといったように、
「冗談じゃアない。あの方はA嬢と仰有る私共の大切なお客様ですよ。お父様の病気見舞にいらしって、今日で既う一週間も御滞在になっているのですよ。」と笑いながらいったが、フト声を落して、
「ところがお気の毒にも、お父様の容態は昨晩から急に不良くなって、今朝方とう/\お逝去りになったのです。」といった。