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りょくいのおんな
緑衣の女
松本 泰
「秘密探偵雑誌」1923(大正12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,168 字 · 25 页
瀕死の状態に陥っているA老人を旅館に残しておきながら、停車場からすぐ旅館へ行かずに、飛んでもない方角違いのH通りを疾走っていたのは不思議じゃアありませんか。私はA夫人も、それから甥と称する男も怪しいと思う。」
二人は間もなくH通りの間口の広い雑貨店の前へ出た。
「このH通りの突あたりは丁字形の横通りになっていますね。そこ迄に幾つ横町があるでしょう。」泉原は相手を振返っていった。
「こゝから数えれば、突あたりの道路をいれて左右に貫いた三つの横通りがありますよ。」
「あの時の自動車の速力から考えても、第一の角を曲って来たとは思われない。第二か第三の角を左手の横通りから出て来たに違いない。若し右横町に彼等の巣があるとすれば、海浜旅館にゆく為にH通りへ出るのは大迂廻りだ。」
二人はやがて第二の横町を入った。そこは壊れた敷石の所々に、水溜りの出来ている見窄らしい家並のつゞいた町であった。玄関の円柱に塗った漆喰が醜く剥れている家や、壁に大きな亀裂のいっている家もあった。
「君、左側の家に注意してくれ給え。」
「どうして左側かね。」泉原の言葉にギルは怪訝らしく問返した。