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りょくいのおんな

緑衣の女

松本 泰

「秘密探偵雑誌」1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,168 字 · 25 页

青空文庫

雨の降っている最中に植木鉢を仕舞い忘れる事は屡々経験する事実である。それに遺失し易い婦人の毛ピンが敷石の上に落ちていたからといって格別怪しむに足らなかったが、白昼とはいいながら死んだように寂れた町に立って、取着く島をも見出し得なかった二人は、そのような事をも頼みにする心持になったのである。ギルは中凹みに擦り減った石段を上ってその家の扉を叩いた。中々応えがない。その時遠くの町角に現われた男は二人の姿を認めて、アタフタと其場を立去って了った。

ギルは続け様に扉を叩いた。けたゝましい音が町中に響き渡った。するとすぐ玄関わきの扉をあける音がして、五十恰好の薄穢い服装をした女が不機嫌な顔を突出した。ギルは突然三階には何者がいるかと訊ねた。女は投げつけるような語調で、誰も住んでいない由を答えた。

「お前の言葉だけでは信ずる事は出来ないから、三階へ上って見る。」といって職掌を書いた名刺を示した。女はひどく狼狽した様子であったが、故意と玄関口に立ちはだかって、

「病人が臥ているから、上っては困ります。どういう御用事ですか。」と頻りに押止める様子が、却って二人に疑惑の念を抱かしめた。