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りょくいのおんな

緑衣の女

松本 泰

「秘密探偵雑誌」1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,168 字 · 25 页

青空文庫

併し相手は婦人づれであるから、確に自分の方が先に相違ないと思って、彼は工合のいゝ物蔭に立って眼を輝かしていた。

泉原はなけなしの金を費して、わざ/\マーゲートまで来ながら、とう/\グヰンの姿を見失って了った。恐らく彼女の一行はこのように遠はしりもせず、V停車場を離れると、じきに郊外の小駅で下車して了ったものであろうか、それとも同じ終点で下りたが、彼より先に構外へ出た人々のうちに交っていたのかも知れぬ。捕えたらあゝも云おう、斯うも云おうと意気組んでいた泉原は、張詰めた気がゆるむと、一時に疲れを感じてきた。マーゲート駅で下車した人々は停車場を立去って、大風が吹過ぎたあとのような駅前の広場に、泉原は唯ひとり残された。彼は何処へゆくという的途もなく、海岸通りへ歩を運んだ。

装飾電燈をつけた五階建、六階建の宏荘な旅館が、整然として大通りのペーブメントに沿ってすっくりと立並んでいる。美しい服装をした婦人達の姿がチラ/\と見えていた。

「Q旅館か、二年前に始めて英国へきたその時の夏には、この旅館に宿泊った事がある…があとにも先にも、それが一ぺんきりに違いない。」