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ぬいこ
縫子
宮本 百合子
「新潮」1926(大正15)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,962 字 · 20 页
「ああおいしい」
如何にも好物を嬉しそうに抱え込んでいると、ガラリと格子が開いた。おやと登美が箸を止め、出て行こうとする間もなく続いて境の唐紙が一気に開かれた。
「やあ今日は、何だ、縫ちゃんどっか悪いの」
和服で立ったのは従兄の英輔であった。
「いやな英兄さん、びっくりしたわ」
登美は改めて、
「こんにちは」
と少女らしい挨拶をした。
「どうしたの、悪いの」
縫子は、鼻のところまで夜具の衿を引上げ、赧くなり、極りわるげに眼で笑った。
「頭が重いんだって」
登美が代って答えた。
「へえ、風邪? この頃流行ってると見えるね、クラスでも閉口してる奴があった」
そしてまた、寝ている縫子を顧みた。
「大したことないんだろ?」
縫子は合点した。
「姉さんの、気病よ」
「仮病でなくて幸だ、ハハハハハハ」
登美がお茶を出したり、それを英輔が飲んだりするのを傍で眺めると、縫子には自分の寝ているのが詰らなく感じられてきた。体がいつか軽くなった。それを無理に夜具で寝かしつけているような心持さえする。
「母さんは?」
「ちょっと買物」
「何、それ」
英輔が登美の抱えていた小丼を見つけたらしい。
「何でもないわ」